だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





逃げ出したい、と。

この人から離れたい、という気持ちはまだある。



けれど、圭都さんの想いが、それを私に出来なくさせた。

まだ湊を想い出すことは沢山あるけれど、それを一緒に懐かしい、と言ってくれる人。

苦しくなった時、何も言わずに手を差し伸べてくれる人。




ねぇ、湊。



貴方はこの人に、

何を託したのかな。



今はもう、

それを知る術がないよ。

それが、とても悔しい。




そろそろだ、と言ってる。

背中を押されている。

幸せになって、と。




今も、そう、

想ってくれている、と。

届いてるよ。




車の中には雨の匂いが充満していた。

その中で、私は圭都さんの匂いに包まれていた。


二人の鼓動の音が重なり合っていた。

車の中に隠れるように、ぴったりとくっついていた。




「俺を好きだ、って言えよ」




繰り返される言葉。

強気な言葉と震える腕。

本当は、怯えていると知っている。





「・・・好き。圭都が」





『さん』を取った名前は、私が初めて触れるもののような気がした。

驚いて私の顔を見た圭都は、目を見開いて固まっていた。




そっと、その頬に触れる。

そのまま小さくキスをした。




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