だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
『先方の廣瀬さんって方なんですが、かなりの敏腕で凄かったです。なんでも休暇も兼ねて今日は函館に行くとか』
「函館・・・」
『どうかしましたか?』
篠木の声にううん、と応える。
そういえば、函館にも大きなオフィスがあったはずだ。
休暇も兼ねて、ということは秋商戦が落ち着いてきている、ということだろう。
『――――――本日は函館行き、スーパー北斗――――――』
後ろで車内アナウンスが流れた。
篠木が小さく声を漏らしたのを、聞き逃しはしなかった。
『時雨さん、もしかして函館に旅行ですか?』
「・・・そうなの。偶然にも、ね」
そう言うと篠木はほんの少し考えて、そうだ、と言った。
言いたいことは大体わかっていたので、ちょっと気が重い。
『もし時雨さんさえ良ければ、一日だけでも同行してもらえませんか?明日なら終日空いてるそうなんですよ、廣瀬さん』
休暇中の仕事なんて別にかまわない。
もともと長いお休みを貰っても、持て余してしまうから。
ただ、クライアントと会うとなると、スーツや靴など、必要なものが多すぎる。
けれど。
敏腕の営業さんに会う機会。
それも、御堂さんが作ってくれた道。
それは私にとって、とても魅力的なものだった。