だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「わかった。ただ、本当に旅行のつもりだったから、仕事の道具が何もないの。だから、ちょっとお願い事、聞いてくれる?」
『おやすい御用です。じゃあ、とりあえず廣瀬さんに連絡を取って、会社からまた連絡します』
「わかった。お願いね」
そう言って電話を切った。
ふう、と一息ついて乗車口の外を見る。
さっきまでまだ白さを残していた陽の光は、徐々にオレンジが色濃くなっている。
水鳥さんには、メールではなく電話で返事をしよう、と思った。
スーツや靴を持ってきてもらうためには、家への入り方と、それらの置いてある場所を知っている水鳥さんに頼むしかない。
お土産は奮発しなくては。
部署のみんなからは、休みの日にまで仕事をするなよ、と呆れた声が聞こえてきそうだ。
それでも、篠木の言った『敏腕営業』に会うのは、きっといい刺激になる。
それに、これで往復の乗車券代は浮いたな、と考える。
出張扱いにしてくれるので、交通費分はありがたく頂いておこう。
座席に戻って窓の外を眺める。
あと一時間くらいで、目的地に着くだろう。