だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版





「わかった。ただ、本当に旅行のつもりだったから、仕事の道具が何もないの。だから、ちょっとお願い事、聞いてくれる?」


『おやすい御用です。じゃあ、とりあえず廣瀬さんに連絡を取って、会社からまた連絡します』


「わかった。お願いね」




そう言って電話を切った。

ふう、と一息ついて乗車口の外を見る。

さっきまでまだ白さを残していた陽の光は、徐々にオレンジが色濃くなっている。




水鳥さんには、メールではなく電話で返事をしよう、と思った。

スーツや靴を持ってきてもらうためには、家への入り方と、それらの置いてある場所を知っている水鳥さんに頼むしかない。


お土産は奮発しなくては。




部署のみんなからは、休みの日にまで仕事をするなよ、と呆れた声が聞こえてきそうだ。

それでも、篠木の言った『敏腕営業』に会うのは、きっといい刺激になる。



それに、これで往復の乗車券代は浮いたな、と考える。

出張扱いにしてくれるので、交通費分はありがたく頂いておこう。



座席に戻って窓の外を眺める。

あと一時間くらいで、目的地に着くだろう。




< 30 / 276 >

この作品をシェア

pagetop