だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
湊との待ち合わせは、十六時半。
仕事で先に来ている湊は、駅まで車で迎えに来てくれると言っていた。
駅に着いてから特にぶらぶらするわけでもなく、ただ待っていた。
駅前にあるベンチに腰掛けて、じっと遠くの空とバスの流れに目を向けた。
空は少しずつオレンジに染まっていて、昼間の白い光は、薄く溶けていくようだった。
夜の闇と夕暮れの色。
溶け合うわけでもなく、反発するわけでもない。
ただ滲んでいく色は、脳裏に焼き付いて離れなくなりそうだった。
「今日の夜なら、綺麗な月が見えるかも」
ひっそりと呟いてみる。
明日は『憂愁の名月』。
お月見をするのに、絶好の月が見える時。
一年に一度、この日だけは晴れて欲しいと想う。
それと、七夕の時だけは。
織姫と彦星。
年に一度しか逢えない。
その時間をどうやって埋めるのか、今の私にはわからない。
日に日に変わっていく相手の姿を目に出来ないなんて。
信じる強さも、相手を想う気持ちも。
本当に羨ましいと想った。
旅の目的と同時に、湊の声を想い出す。