だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
『今年は、織姫と彦星が泣いていたね』
ぼそりと湊が呟いた。
夏休みが終わる直前。
私は何を言っているのかわからず、キッチンからリビングにいる湊を見つめた。
「どうして『泣いていた』ってわかるの?」
今日の紅茶当番は私だ。
湊がアッサムを飲みたい、と言ったのでそれを淹れてあげる。
私が淹れるより湊が淹れる方が美味しく出来るのに、湊は私の紅茶を飲みたがる。
『紅茶には気持ちが含まれるから』だそうだ。
ティーコゼーをつけて葉を蒸らしていると、湊がキッチンに歩いてきた。
「お墓参りに行った時に、雨が降っただろう?だから」
益々わからなくなって、湊へ目線を向ける。
どうしてお盆に雨が降ると、織姫と彦星が泣いているのか。
何かおかしなことを言っているな、と心配の目で湊を見つめる。
おでこがこつん、と重なり合う。
「旧暦の七月七日が、今年はお盆と重なってたんだ。昔は、その日に二人が逢瀬をする、と言われていてね」
そういえば、と考える。
湊は、日本史文学の専攻だったはずだ。
どうりで、旧暦だの、言葉だのに詳しいわけだ。
雑学が好き、ということも忘れてはいけないけれど。