だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「でも、雨が降ると二人は逢えないだろう?だから、涙を流すんだよ。それが僕達に降ってくる」
湊は私の前で『俺』と言うことはない。
あの時の、一度きり。
もう習慣になっていて、今更私の前ではその仮面は外れないのだそうだ。
いつか余裕をなくさせて、もう一度言わせてみせる、とは想っている。
「洒涙雨。逢いたくてたまらない、と想う雨」
私が他の事を考えていたのなんてお見通し、と言うようにぎゅっと抱き締められる。
言葉がなくても、その腕の強さが教えてくれる。
いつも私のことを見ているよ、と。
サイルイウ。
逢いたくてたまらない、という想い。
そんなのいつもだよ、と想う。
夜が待ち遠しい。
湊の顔を見るだけで、幸せになれる。
湊が笑ってくれるだけで。
そこにいて、呼吸をしているだけで。
「私が織姫だったら、寂しくて耐えられなくて、飛んで行っちゃうかもしれない」
「おてんばなお姫様だ」
くすくすと笑って、瞼にキスが降りてくる。
横目に砂時計の砂が、さらさらと落ち切るのが見えた。
紅茶を注いであげたいけれど、もう少しこのままでいたい、と想った。