だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
あの後、唐突に湊は『月を見に行こうか』と言ったのだった。
たまたま来月出張になったのだ、と言う。
それにあわせて旅行もしよう、と。
『秋は雨が少ないから、違うものを見に行こう。時雨と同じ場所で、同じもの』
同じ場所で、同じものを。
それが何より嬉しいことだと、湊は知っている。
言葉よりも空気が。
想いよりもぬくもりが。
私達の気持ちを伝えるために、より必要なのだと知っている。
その後すぐに、ホテルを予約してしまった。
この人の行動力は一体どこから沸いてくるのだろう、と感心してしまった。
家でもそれは見れるけれど、わざと旅行にしてくれたに違いない。
それは、いつ家にいるかわからない両親にバレないためのことだ、とすぐにわかった。
二人に『本当に仲がいいね』と言われる度に、自分の仮面が厚くなっていく気がした。
本当は知って欲しかった。
私と湊のこと。
でも、それを切り出すきっかけはなかった。
せっかく家族になったのに、それを崩すわけにはいかなかった。
この幸せな四人家族でいること。
それを両親二人が大切にしていると、一番近くで感じていた。