だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「待ってるから」
そう言い残して、湊は先に露天風呂へ行ってしまった。
一人で行くくらいなら、強引に連れて行ってくれればいいのに。
こういう時の湊の意地悪さに敵わない。
そもそも、私が湊に敵うものなんてあるのかさえ疑問だ。
もともと強引なくせに、それを優しさでごまかすのが本当に上手い。
優しい笑顔で自分の意見を貫く湊に、ただならない気配を感じるときがある。
やんわりと、自分のしたいことを出来るようにしてしまう。
それは、湊にとっての最大の武器なのだろう。
『自分に正直でいることが、人が生きていくなかで一番大切なことだよ』
いつだったか、湊はそう言って笑っていた。
『それを貫くためなら、いくらでも仮面を被っていくよ』
湊は大きな何かを背負っているのかな、とその時考えた。
考えれば考えるほどわからなかったので、結局考えるのをやめてしまった。
聞いたところで、答えが返ってくるとも思えなかった。
湊は片手に缶ビールを持って、楽しそうにお風呂に向かっていった。
その背中を見て、傍にいたい、と想ってしまった。
離れていく湊の背中を見るのは、やっぱり嫌いだと想った。