だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
からからと窓を開けて、露天風呂に近づく。
湊はその気配を察してか、海に煌く光ばかりを眺めている。
こちらを振り向く素振りは、一つもない。
そのことが、余計に私を緊張させた。
バスタオルを巻いたまま、少しずつ湊の近くへ足を進める。
白い湯気に紛れているけれど、その背中の輪郭が見える。
お風呂の端に両肘を出している後姿は、肩から肩甲骨にかけてしか見えなかった。
それでも、骨ばった形としなやかな筋肉は私の知っている湊の背中だった。
細いけれど、大きな背中。
いつも見つめている、その姿。
少し目線を上げると、目の前には小さな宝石箱をひっくり返したような景色が見えた。
海には揺れる光。
道路を挟んだ向こうには、少しずつ違う色を放つものたち。
少し低い位置に、大きなまんまるの月。
ひたひたと足音をたてて行く。
時折缶ビールを口元に寄せる姿を見て、なんだかほっとする。
緊張はしているけれど、それとは裏腹に早く湊の傍に近づきたかった。
湊に触れられる距離に。