だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「時雨、もうこっちにおいで」
そう言って、湊はそっと私を呼んだ。
すぐ近くまで来ているのに、なかなかお風呂に入れない私の気配をわかっていたのだろう。
振り向いて私を見つけた湊に、力強く手首を掴まえられた。
いつもは冷たい湊の手が、熱くなっていることに眩暈すら覚えた。
「だって・・・。自分で此処まで来るのも精一杯で」
「そうさせたんだから。時雨が自分で此処まで来たことで、もう十分だ」
赤く火照った顔で、湊は私を見上げていた。
そこには、満足そうに笑う顔が見えた。
「おいで」
掴まれている力強さとは真逆の、私を甘やかす声がする。
その声に、私が逆らえないのを知っている。
掴まれた腕はそのままに、私は静かにお湯の中に足を入れた。
お湯に足をつけると、少しびくりとした。
冷えた身体に温かい温度が巡る。
その場に沈みそうになる私を、しっかりと引き寄せて自分の前まで引く湊。
その力に抗うことなく、私は身体を預けていた。
気付けば、湊の腕の中にすっぽりと納まり、抱きかかえられるようにされていた。