だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「やっと来たの?随分と準備に時間がかかったね」
意地の悪い声で湊が囁く。
耳元で響くその低い声に、どうしようもなく恥ずかしくなった。
けれど、それと同時にどうしようもなく愛しくなった。
「どうせ一緒に入るなら、湊が強引に連れて来てくれればよかったのに」
「それじゃ、意味がない。時雨が自分で来ないと。無理強いしたいわけじゃない」
きっぱりと言い放った湊の声は、真剣そのものだった。
それを聞いて、どうしても顔を見たくなって、少しだけ振り向いた。
目が合うと、二人で笑ってキスをした。
何か言っても今の私達には不十分で、言葉では伝えることが出来ない気がした。
そっと私の頭を撫でて、後ろからぎゅっと私を抱き締めてくれた。
その腕に自分の手を合わせて、そっと前を向いた。
「綺麗」
「そうだね。今日は、いいお月見日和だ」
二人で見つめる景色はやっぱり特別で、私の胸を苦しくさせた。
近くにいると、二人の鼓動は同じ速さで脈打っていた。
音が混ざり合う。
波の音と車の走る音。
私達の呼吸、鼓動。
少し動くたびに、揺れる水の音。