だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
光が反射する水の流れは、とても綺麗で目を奪われる。
飲み干した三杯目のビールグラスを見て、バーテンダーが注文を聞きに来た。
少し考えて、エックス・ワイ・ジーを注文する。
エックス・ワイ・ジー。
これ以上のものはない、最高のもの。
カクテルの考案者の言葉。
飲むと爽やかな口当たりがお酒の強さを隠してくれる。
湊みたいだな、と想う。
明日になれば、篠木と櫻井さんが函館にやってくる。
夜には『廣瀬さん』を含めてお食事会だ。
その後、どうせ三人で飲みなおすことになるだろう。
きっと篠木は先に眠くなってしまうので、櫻井さんと二人で過ごすことになるかもしれない。
湊の気配のする、この函館で。
けれど、今日のように一人で飲んでいるよりはずっといいのかもしれない。
櫻井さんとの距離がどんどん縮まっていく。
そのことがいいのか悪いのか、今の私には、判断するすべはなかった。
ふと、左隣に目を向ける。
スーツを着て、平日の午後九時からバーカウンターに座る男性。
優しい顔をした男性は、一人でビールを飲んでいた。
少しのチーズとサラミの乗ったお皿。
彼もきっと、夜ご飯を食べずに飲んでいるのだろうな、とぼんやり思った。