だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
ふと、目を上げた男性がこちらに気付く。
ずっと見ていたようで、なんだがいたたまれない気持ちになる。
会釈だけして目線を外す。
寂しい一人旅だと思われたかな。
喉を通るお酒は、身体の中からぽかぽかとしてくる。
空っぽのお腹にお酒だけが染み込んで、少しふわふわとしている。
結局、何か食べに行くことになりそうだな、と考えながらぼんやりと目の前の景色に目を向けていた。
「どうぞ」
頼んだ覚えのないチーズの盛り合わせが目の前に運ばれてきた。
私がきょとんとした顔をしていると、目の前のバーテンダーがにっこりと笑っていた。
「あちらのお客様からです。強いお酒の時には、チーズが必要だ、と」
こんなキザな事をする人が、このご時勢にいるのか、と目の前のお皿をまじまじと見つめながら思った。
ただ、その好意を無碍にすることも出来ず、グラスを持って立ち上がる。
鞄だけは席に置いておくことにした。
「すみません。ご好意、有り難く頂きます」
「いいえ、気にしないでください。この時間ならお食事をしていないんじゃないかと思っただけなので」