だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「それでは改めて。乾杯」
「乾杯」
小さく答えてグラスを合わせる。
見た目にそぐわない豪快な飲みっぷりに、なんだか気持ちが和んだ。
「お仕事ですか?」
「ええ。まあ、仕事も兼ねて」
「そう、ですか」
話題を探すと、結局仕事のことを聞く羽目になる。
私の頭の中は仕事のことばかりだ、と少しげんなりする。
今は他のことでも頭がいっぱいのはずなのに。
「半分プライベートなんですけどね。それより、ご旅行ですか?」
「あ、はい。久しぶりの長期休暇なので、のんびりしようと思って」
「それはいい。だから、あんなにゆっくりされてたんですね」
そう言われてにっこりと笑顔を浮かべる。
ゆっくりしていたのは、それだけが理由ではない。
そのことは言葉にせずに飲み込んだ。
他愛もない話をしながら二人でお酒を勧めていた。
上手く仕事の話をはぐらかされては、どうでも良い話をする。
とても、話術の巧みな人で。
人の心を除くのが上手い人。
好きな色。
好きなお酒。
好きな景色。
好きな季節。
話を聞くのが上手な彼に、思わず色々なことを話してしまいそうになる。
言葉を選んで話していることに気付かれなければいい、と思った。