だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
空いたグラスをすっとバーテンダーに差し出す。
私は目の前でその仕草を見ていた。
「ギムレットを。彼女には・・・ホワイトレディを。いいかな?」
「あ、はい。なんでも」
そうして目の前でシェイカーが振られる。
その音を耳にしながら、揺れる銀の器を見つめていた。
「勝手に頼んでごめんね。でも、同じようなお酒なら平気かと思って」
「大丈夫です。お酒は強い方なので」
目の前にショートカクテルグラスが置かれる。
さらさらと流れる液体は、白く煌いていた。
彼のグラスには、少し緑がかった薄い色の液体が注がれた。
それを待って二人でグラスを持ち上げる。
口に含んだそれは、甘く印象深い味がした。
「ギムレットはね、『長いお別れ』という小説に出てくるんだ。まだ、君と一緒にいたい、という意味なんだけど」
にっこりと笑うその顔が、私の警戒心を本当に薄くさせる。
この人の目は、不思議。
吸い込まれてしまいそうになる、こんな感覚は。
昔の私なら、すぐに『イエス』と言えただろうに。
今はどうしてこんなに躊躇っているのか、自分でも気付かないところで、強くブレーキをかけているのが分かった。