だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
もう一度お礼を言って、水鳥さんとの電話を切った。
ベッドの端に腰掛ける。
羽織っていたロングカーディガンを脱いで横に置く。
部屋全体の電気を消して、オレンジの柔らかい間接照明だけにする。
窓の外には、海が見える。
まだ満ちていない月。
揺れる海にそれが映る。
街の光が、星の光を邪魔している。
よく晴れた空を見る。
空は今日も高くて、
青が色濃く映えている。
もう、届かないのかな。
冷たいけれど、
凛としている。
それは、
私が良く知っている
その背中みたいに。
一人の部屋は、私をこの世界から切り取ってしまったようだ。
静かに流れる時間。
ラジオに手を伸ばして、スイッチを入れる。
静かな音楽が部屋を包んでいく。
絞られたボリュームで流れるそれは、どこか現実味のない感じがした。
想い出した背中は、やっぱり私を悲しくさせた。
追いかけて追いかけて。
捕まえた途端に消えてしまうことを、今は知っているから。
明日は営業同行。
緩んだ頭の中を整理して、仕事が出来る頭に切り替えないと。
携帯のアラームを九時にセットする。
お昼までに動き出すことが出来ればいいだろう。
フロントへ電話をかけて、さっきのバーの会計をお願いする。
顔を合わせたくないので、直接バーに行かずに済むように交渉をした。
フロントへ向かうために部屋を出る。
真っ暗になった部屋から、少し黄色を含んだ白い月の光が見えた。