だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
凄雨
陽射...ヒザシ
「お疲れ様です。お休み中なのに、本当にすみません」
「気にしないで。特に予定があって来てるわけでもないから」
篠木は申し訳なさそうな顔をして、ホテルのロビーで待っていた。
私がそう言うと、やっと笑顔を見せてくれた。
手には大きな紙袋を持っている。
おそらくそれは、水鳥さんから渡された私のスーツなのだろう。
「これ、時雨さんのスーツです。中に必要な物が入ってるから、とのことです」
「ありがとう。じゃあ、着替えてくるね」
渡された紙袋はずっしりと重く、なんだか不思議な感じがした。
いつも身に着けているはずなのに、この土地で受け取ると全く別の物のようだ。
やっぱりまるで現実感がない。
「それじゃあ、少し待ってて。すぐ戻るから」
「わかりました。俺はここで待ってますので、ゆっくり着替えてください」
頷いて、その場を後にしようとする。
ただ、違和感を感じてもう一度篠木の方へ振り返った。
「そういえば、櫻井さんは?」
篠木と一緒に来ているはずなのに、ロビーには来ていない。
いつもなら率先して待っていそうなのに。
車にいるのなら、別にそれでも構わないのだけれど、何故だか聞いてしまった。