だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「あぁ、櫻井さんは廣瀬さんと電話してます。高校時代からの友人だって話はしましたよね?廣瀬さんが転勤になって戻ってきたので、久しぶりの再会なんだそうです」
そういえばそんなことを言っていたな、と思い出す。
櫻井さんの同行が『尾上部長の画策』なんて考えていた自分が、どれだけ自意識過剰だったか、と。
なんだか恥ずかしくなってしまった。
「そういえば、そうだったね。じゃあ、着替えてきたらカフェで打ち合わせでもしようか」
「わかりました。櫻井さんにも言っておきます」
お願いね、と言って自分の部屋へ向かう。
預かった紙袋ががさがさと揺れていた。
部屋に戻ってすぐに袋の中からスーツを取り出した。
ベッドに広げて少しだけついた皺を伸ばす。
あわせるカットソーをキャリーの中から探して着替える。
黒のスーツに白のカットソーを羽織る。
まだまとめていなかった髪を、しっかりとアップにする。
鞄の中身を入れ替えて、靴も履き替える。
その一連の動作が、私を社会人にしていく。
頭の切り替えなんて、そう簡単に出来るものではない。
私は私生活も仕事も切り離して考えられるほど、大人になってはいない。
それでも。
私は社会の中で生きているんだ、と。
それを教えてくれるのだと思う。
化粧とスーツ。
それはある意味、仕事をする上での『武装』なのかもしれない。