だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
ロビーに戻ると、櫻井さんと篠木が二人で待っていた。
いつもながら、うちの営業は見てくれだけはとてもいい。
中身が透けて見えればいいのに、と思うくらいに。
グレーの細身のスーツを綺麗に着こなす櫻井さん。
黒のスーツが、やっと身体に馴染んできた篠木。
ただそこに立っているだけで、二人はなんだか絵になる。
薄い色素の髪に整った顔。
篠木に向けられる顔は、とても大人に見える。
社内で大声を発するとは思えない表情。
仕事をしている櫻井さんは、やっぱりどこか素敵だ。
眼鏡の奥で、嫌味なくらい綺麗な顔がくしゃくしゃになって笑っている。
篠木の顔は、驚くほど整っている。
この二人に囲まれる自分を想像すると、なんだかいたたまれない気持ちになった。
「お待たせしました」
声を掛けると二人がこちらを向いた。
いつも社内で見ている二人が、なんだか知らない人のように見えた。
「お疲れ様。悪かったな、休み中に」
「いいえ。まだまだお休みは長いですから。気にしないで下さい」
「どうせ一人でぼんやりしてたんだろ?なんだよー、俺達が来て嬉しいんじゃないのか?」
正直、あんまり嬉しくないです、と顔だけで苦笑いを作る。
この人のこういう空気が、実は場を和ませるためだと知っている。