だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「そんなこともないですよ。ナンパされるくらいには楽しんでますから」
「しぐれをナンパ?勇気あるな、そいつ」
「どういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ」
櫻井さんはニヤニヤと楽しそうに笑っている。
ナンパなんて、嘘か何かだと思っているのかもしれない。
それでも別に構わないけれど、なんだか悔しいな、と思うのも事実だ。
「時雨さん、ナンパされるんですね。なんか隙がなさそうだから、声とかかけられないイメージだったのに」
「まぁ滅多にないけど、たまには・・・ね」
篠木に言われて、うっ、と思う。
確かにいつもは声をかけられることは少ない。
一人だから邪魔しないで、というオーラが勝手に出てしまうことが普通なのだ。
でも、昨日はそうではなかった。
明らかに油断していた。
「ま、とりあえず打ち合わせするぞ。昼飯もまだだしな。外出るか?」
「そうですね、確かに俺も腹減りました。」
そういえば私もお腹が空いた。
待ち合わせまではまだ三時間以上ある。
これから出掛けてご飯を食べに行っても、十分に間に合う時間だ。
「じゃあ、外で食べようぜ。どうせ車もあることだし」
篠木も私も頷いた。
ゆっくりご飯を食べられるのは、出張の醍醐味だ、と思った。