だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
キザ。
気にさわると書いて気障。
櫻井さんとの違いはそこなのだろうな、と思った。
優しい感じで、気障な男の人。
それはそれは。
女の人が寄ってくるのも当然のような気がした。
「クライアントに向かって、それはないんじゃないの?」
私たちの後ろから、すっと声が伸びてきた。
それを聞いて櫻井さんが立ち上がって振り向く。
少し遅れて私たちも立ち上がった。
「何も間違ったことは言ってないけどな」
「随分だな。圭都だって、随分追い掛け回されてたじゃないか」
圭都。
櫻井さんのその名前を呼ぶ人は少ない。
その言葉だけで、とても仲がよかったのだとわかる。
振り向いて相手の顔を見つめる。
「なっ・・・!!!」
変な声を上げてしまった私を見て、櫻井さんと篠木が私のほうを振り向く。
先方のクライアントも、驚いた顔をしているが、すぐに冷静さを取り戻す。
にっこりと笑った顔がとても印象的な人。
大きな黒目が、笑った顔からもはっきりとわかる。
「山本、どうかしたか?」
よそゆきの呼び方で私を呼ぶ櫻井さんに、なんとか冷静さを取り戻す。
小さく、いいえ、と答えて名刺を用意する。
隣で篠木の心配そうな気配を感じたので、大丈夫と笑って見せた。