だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「ご挨拶が遅れました。営業担当、チーフリーダーの櫻井と申します。篠木がいつもお世話になっています」
丁寧に挨拶をしながらもニヤニヤと笑い合っている二人を見て、なんだか不思議な気持ちになる。
気持ちを立て直すのに必死で、頭が上手く回っていないせいかもしれない。
「廣瀬です。よろしくお願い致します。広報部で課長をしています」
「随分、出世されたようで」
「お陰様で」
そのやり取りは、とても懐かしい、と言い合っているようだった。
自然と顔がほころぶ二人。
『半分プライベート』というのは、正解だと思った。
「こちらが部下の山本です。篠木はすでにご挨拶していると思いますが」
櫻井さんに促されて名刺を取り出し挨拶をする。
落ち着かなければ、と思うほど、冷静でなくなる気がする。
「櫻井のアシスタントをしております、山本と申します。どうぞよろしくお願い致します」
「廣瀬です。よろしくお願いします。御堂会長からお伺いしていますよ。本当に可愛らしい方だ」
にっこりと笑って廣瀬さんは言った。
気付いていないわけがないのに、何も触れてこないのはとても狡いと思った。
こちらの動揺を見抜いて、楽しんでいるに違いなかった。