だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「だから言ったでしょ?『名刺交換でもしよう』って」
「もしかして、わかってらっしゃったんですか?昨日、お会いした時に?」
「想像通りだったから。まぁ、確信したのは南さんからの着信だけど」
「それも、見えてらしたんですね。言って下さればよかったのに」
「どんな反応するかな、と思ってたんですよ。思わず構いたくなる、山本さんが悪い」
「そんな・・・」
にっこりと笑ったその顔に、手も足も出なかった。
なんだかいたたまれなくて、その顔を見つめ続けていた。
レンズのような、その黒目を。
「山本、廣瀬と会ったのか?」
「昨日たまたま会ったんだ。ホテルのバーで。そそくさと逃げられてしまったけどね」
少し冷たい声に、冷静さを取り戻す。
はっと櫻井さんの方を向くと、笑った顔の中に真剣な目が見えた。
悪気もなく言葉を放った廣瀬さん。
その言葉に櫻井さんは笑顔を作る。
よそゆきの『櫻井圭都』の顔で。
「いつまで経っても変わらねぇな。だから『女たらし』だって言うんだよ」
「いいじゃないか?こんなに可愛らしい人がいれば、声をかけたくなるだろう?」
そう言って私の方へ向き直って、廣瀬さんは言った。
昨日と同じブルガリのネクタイピンと時計が光っている。