だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「随分、櫻井と仲がよろしいんですね。立ち話もなんですから、カフェでお茶でもいかがですか?」
不穏な空気を察知したのか、ロビーで立ったまま話している私たちに篠木が冷静に告げた。
仕事モードを崩していないのは、篠木だけになっていた。
相変わらずクールだな、と思ったがそれが篠木のいいところだ。
「そうだな。じゃあ、行くか」
「あぁ。そうしよう」
二人は連れ立ってホテルのカフェに向かって行った。
篠木と私も並んで背中を追った。
「こんな調子で、大丈夫ですかね・・・」
「まぁ、櫻井さんもいるし大丈夫よ。篠木はいつも通り対応してて」
「いや、そうじゃないんですけど・・・」
「ん?何が?」
「あ、いえ。なんでもありません」
口ごもった篠木が何か言いたそうだったけれど、その言葉は飲み込んでしまったらしい。
首を傾げて篠木を見ると、困ったように笑った大人びた笑顔が返ってきた。
「おい!二人とも行くぞ!」
「あ、はーい!すみません!篠木、行くよ」
「はい!今行きます!」
『時雨さんは鈍感すぎるな』という篠木の声は、明るいホテルのロビーに吸い込まれていった。