だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
抜擢...バッテキ
「圭都はずるいなぁ、こんなに可愛いアシスタントがいるなんて。しかも主任だろ?仕事も出来るだなんてさ」
運ばれてきたコーヒーに口をつけながら、廣瀬さんは楽しそうに言った。
櫻井さんは不適な笑みを浮かべていた。
「羨ましいか。そっちは廣瀬に女のアシスタントなんて付けたら、大変なことになる、って思われてるんじゃないのか?」
二人はすでに仕事モードからプライベートモードになっている。
その変わり身の早さに、私と篠木は付いていくので精一杯だった。
二人の話に相槌を打ってばかりいた。
「社内では大人しくしてるよ。それなりに、ね」
「ま、当然だな。でも、うちの山本だとわかって口説くってことは、クライアントの女には手を出してるってことだろ?」
意地悪く笑った顔でぴりぴりした空気を和らげる櫻井さん。
こういう風に感情を殺すのが、本当に上手い。
けれど、その隠した感情を敏感に感じ取る自分が嫌だ。
「山本さんは特別。御堂会長のお気に入りなんて、興味湧いて当然だと思うけど?」
なんてことない、というように廣瀬さんは言った。
櫻井さんの言っていた『女ったらし』は正解だと思う。
昨日の気障な台詞も行動も、この人にはとてもしっくりくる。
しかも、それに揺れない女の人はほとんどいないだろう。
大きなレンズで見つめられると、自分が自分でないような気分にさせられる。