だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「廣瀬さんはとても魅力的だと思います。でも、うちの篠木も、とても優秀ですよ」
どちらも嘘ではない。
だからにっこりと笑ってかわす。
「本当にいいね。こんな簡単にかわされたのは久しぶりだよ」
「だから優秀だって言っただろう?」
誇らしげに響いた櫻井さんの言葉は、嬉しさと恥ずかしさを連れてきた。
にっこりと笑って見せると、廣瀬さんはますます嬉しそうに笑った。
「山本さん、お休み中だったのにすみません。でも、どうしてもお会いしてみたかった」
「お気になさらないで下さい。折角の機会にお会い出来ないほうが残念ですから」
そう言うと、満足そうに廣瀬さんが頷いた。
穏やかな空気の中、仕事の話や櫻井さんとの昔話に夢中になっていた。
仕事の話になると驚くほど真剣になる顔を見て、仕事に対する情熱が伝わってきた。
櫻井さんと同じものを持っている人。
同じ年代で同じくらい仕事が出来る人は、櫻井さんの周りに多くいないだろう。
櫻井さんの空気が嬉しさを纏っている。
廣瀬さんも安心しきった表情で話をしている。
ふいに、廣瀬さんが篠木に目線を移した。