だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
家から駅まで向かう。
がらがらと音を立てているキャリーケースが意外と重たくて億劫になってきた。
地下鉄駅までは歩いてすぐだというのに。
今日はJRに乗って出掛けることにしている。
飛行機も好きだが、私はJRも大好きだった。
車窓から流れる景色はゆっくりと現実から自分を切り離してくれる。
社内のアナウンスや安っぽい社内販売。
どれもこれも現実離れしていて、そこが電車で移動する醍醐味だと思う。
そんなことを想像しながら足を進める。
まだ少し意識が仕事にあるらしく、今日のみんなの予定が頭の中で渦巻いていた。
森川は社内で資料を作っているはず。
松山は第三と一緒に会議が入っていたっけ。
篠木は第一と同行で企画会議に行く予定だった。
櫻井さんは今日も一日外回りで、残業しないと終わらない量の事務処理があるはず。
けれど終日社内に水鳥さんがいるので、きっとそれはすぐに終わるだろう。
部長は社内の会議があるはずだった。
落ち着いているとはいえ、何も言わずに遠くに行くのは気が引けた。
会社に連絡すれば水鳥さんがいるはずだ。
休みを貰ったお礼も兼ねて電話をしておこう、と携帯に手をかけた。