だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
そう言った廣瀬さんは、目を背けることなく篠木を見つめていた。
篠木はしっかりと廣瀬さんに向かって笑っていた。
「ご期待に沿えるように、とそればかり考えていますから。これも、櫻井の教育のおかげですが」
自分の自信と上司の信頼。
篠木はまた一回り成長したな、と思う。
櫻井さんは、本当に後輩を育てるのが上手。
見守りながら、相手の力を引き出すのが上手。
少しずつ逞しくなる営業の姿は、とても喜ばしいものだった。
「そんなに可愛らしいアシスタントまでいる、と。いいチームなんですね」
私に向かって伸びてきた言葉に、誇らしくなって笑う。
小さく頷いた私を、廣瀬さんはじっと見ていた。
「廣瀬」
そっと伸びた声は、少しだけ低く響いた。
櫻井さんは、じっと広瀬さんを見ていた。
「やんねーぞ」
にやりと口の端だけで笑って、櫻井さんはそう言った。
それに応えてにっこり笑った廣瀬さんは、完璧な笑顔で言った。
「狡いよな」
そう言って、二人で笑い合っていた。
ぴりぴりとした空気を上手に溶かして。
目の前のココアはぬるくなってしまっていた。
口をつけると、甘い香りが広がった。
その甘さが、私の気持ちをとても落ち着かせてくれていた。