だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
同行...ドウコウ
「そろそろ、出ますか。昨日お願いしていた通り、会社にもお伺いしたいと思っておりまして」
タイミングを逃すことなく、篠木がお誘いをする。
こういう間の取り方は、篠木らしくさりげない。
無理に誘う感じがしないのは、篠木の柔らかな発言の仕方なのだろう、と思った。
「それは、是非。まだまだお話したいことが沢山ありますから」
「こちらも。まだまだお話したいですね」
わざとらしく他人行儀な会話をして、廣瀬さんと櫻井さんが立ち上がる。
それを横目に、伝票を持って私は会計に向かった。
領収書を忘れずに貰わなくては、と思いながら。
櫻井さんが一歩進み、その後を廣瀬さんが歩いていく。
その後ろを篠木が静かについて行く。
それを見送りながら、私は会計へと足を進めた。
「時雨さん」
「どうしたの?」
そっと篠木が私に話しかけてくる。
会計を済ませながら、篠木のほうを少しだけ向く。
その顔は、まだ緊張しているようだった。
「俺、先に車を取りに行って前まで回してきます。櫻井さんには伝えておきますので、よろしくお願いします」
「わかった。気をつけてね」
はい、と軽く笑って篠木は二人に向かって行った。
少しずつ成長していく姿に、追い越されそうな気がする。
それでも。
私には出来ない役割をこなせるようになってきた篠木を、とても頼もしく思った。