だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「でも、廣瀬は軽くあしらわれた、ってことだろ?」
笑顔が張り付いたみたいな顔で笑う櫻井さんを見て、またよからぬ事を口にするんだろうな、と思う。
私をからかいたいのか、廣瀬さんに伝えたいのか。
真意を隠すときに、この顔をするのだ、と最近ではすっかり気付いてしまった。
「いいじゃないか。こんなに魅力的な人に声をかけない方がおかしいだろう?」
廣瀬さんは満面の笑みで櫻井さんへ目線を向けた。
挑発的。
笑顔だからこそ余計に、その目線が櫻井さんを煽っているようだった。
それに動じず、櫻井さんも笑った。
「まぁ、廣瀬ならやりかねないな。気障はお前の代名詞だ。でも、中身は保障しないぞ」
「中身なんて、後付けでいいさ。実際、そのままの山本さんも魅力的だと思うしね」
「そりゃそうだ。うちの部署の人気者だからな」
「南さんよりか?」
「ある意味・・・な」
そう言って、櫻井さんは柔らかく笑った。
自分で何を言ってるのか、ちゃんと自覚しているのかと、問い詰めたくなる顔で。
廣瀬さんは、櫻井さんの顔を見て黙った。
篠木も、珍しい櫻井さんの様子に、目を離せないでいるようだ。
私は、といえば。
櫻井さんが発した言葉を飲み込めずに、ただただその人の横顔を見つめていた。