だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「圭都。お前の周りには本当にいい部下が集まるね」
羨ましい、と小さく呟いて廣瀬さんは櫻井さんから目を外した。
さっきまでの柔らかな笑みを消して、櫻井さんは勝ち誇ったように微笑んだ。
まるで、今までの顔のほうが偽物だというように。
「だから、言っただろう?『やんねーぞ』って」
「違いない」
そう言ってグラスを合わせた。
二人のその仕草は、これ以上言葉は要らない、とでも言っているようだった。
篠木と二人でその様子を見つめていたけれど、私たちにはわからない空間だったので、目を合わせて笑った。
「山本さん、人気者ですね」
篠木が、からかうようにそう言った。
その言葉に、少しむっとした顔を返してあげた。
お酒の席での言葉は、一つ一つの重みが軽くなる。
櫻井さんの言った言葉は、私に絡みつかずにほどけてくれた。
いつもならば、そのまま纏わりついてしまうのに。
さっきまでの櫻井さんの表情は、私を少し苦しくさせた。
それを振りほどくことも、今なら出来るような気がした。
張り詰めた空気は消え、結局沢山のお酒を煽り始めた二人。
篠木を付き合わせるわけにはいかない。
私もグラスを掲げて、二人のお酒に付き合った。
お酒の酔いが回りながらも、楽しそうな少年のような二人は、とても嬉しそうだった。
そんな二人を、ずっと見ていたかった。