だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
「時雨さんが笑うと、手も足も出ないんです。その笑顔があれば、それだけでいいんですよ。それに、簡単に背中を押されてしまうんです。躊躇うな、って」
篠木は私に満面の笑顔をして欲しかったのだ、と気付く。
モノマネを披露する、と言ったのも私を笑わせるためだったのだ。
想像だけで、思う存分笑えたけれど。
「俺も笑顔を武器に出来るようにします」
「篠木が笑顔を武器にしたら、女性はたまらないかもね。男性からは、多少嫉まれるかもよ・・・」
はぁ、と少し疑問そうにしている。
その整った顔を、もう少し自覚すべきだと思うけれど、まだまだ純粋なままでいて欲しいな、とも思う。
「笑うのってね、頑張ろうって口に出すのと同じ力があるから」
そう言うと、篠木は嬉しそうに笑った。
なかなか感情を表に出すのが得意ではない、篠木。
森川と似ているけれど、まだまだ荒削りで不器用だ。
櫻井さんと森川の下で、大きく成長して欲しいと思った。
二人でゆっくり話をする機会がなかったけれど、今日は話が出来て本当によかった。
篠木はこれから、もっと素敵になるだろう。
社内でどんどん人気になる篠木を想像して、ちょっと楽しくなってきた。
「ホテル着いたら、そのまま休むでしょ?」
「そうですね。今日は、どっと疲れましたよ」
それは当然だろう。
私と櫻井さんは仕事モードを完全に切っていたけれど、篠木だけは最後までしっかりとしていた。
真面目さがそうさせていたのだ、とそこにいた全員が知っている。
それに好感を得たのは、言うまでもないだろう。