だから私は雨の日が好き。【秋の章】※加筆修正版
窓から振り返って湊の方を向く。
個室なので、私と湊以外はこの部屋にいない。
小さなソファーとベッドが置かれただけの部屋。
私と湊の部屋よりも少し大きな部屋。
一週間程度の検査入院なので、荷物だってそんなに多くはない。
電動ベッドの頭の部分を持ち上げて、リクライニングのようにして座っている湊の近くに腰掛ける。
湊に背中を向けるような形で。
そこから、ただじっと窓の外に目を向けていた。
湊の視線が私に向いている。
それが、痛いほど伝わってきた。
「私も、湊の傍にいたかったの」
響いた声は、少し頼りなげに湊に届いたに違いない。
そっと、後ろから湊の手が私に伸びてきた。
すっぽりと後ろから抱きかかえられる形になって、涙が出そうになった。
目の前にある、湊の手に自分の手を重ねる。
重ねた手はとても冷たくて、ここにいるのが湊であると証明してくれた。
「時雨がいると、ゆっくり眠れるね」
私を抱き締める腕に少しだけ力が入った。
私の首筋に顔を埋めて、私にしか聞こえない声でそっと言った。
言葉を発する度に、湊の息が首にかかるのがくすぐったくて、ちょっとだけ身体を揺らす。
それを楽しそうに笑う声が聞こえた。
些細なことで湊の存在を確認する度、安心感が広がっていった。