時は誰も待ってくれない 下
横にいた看護婦さんの手を握って声にならない声で伝える。
「赤ちゃんを…お願いします…!」

それから長い時間、激痛との闘いで何度も意識が飛びそうになった。
そのたび女の人たちに声をかけられて励まされた。
頑張れ、ちゃんと元気な赤ちゃんを産むんだ。
命に代えてもこの子だけは…!
その時、大きな大きな産声が響く。
元気いっぱいに泣く赤ちゃんの声が。
「高橋さん!産まれましたよ!元気な男の子ですよ!!」
タオルに包まれた赤ちゃんを見た瞬間、さっきまでの痛みを忘れた。
小さくて可愛らしい赤ちゃんが元気に泣いている。
こんな小さな命が私から生まれたんだね…
嬉しくて嬉しくて止めなく涙が流れる。
男の子だったんだ…よかった、無事に生まれてきてくれて…。
隼人、隼人。
あなたを忘れたことは無い。
赤ちゃんが産まれたよ。私たちの子供がこんなにも元気に泣いてるよ。
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