時は誰も待ってくれない 下

二人の間にしばらく沈黙が流れる。
私の頭は真っ白でパニック状態のせいか、考えたくないからなのか、言葉も出てこない。
隣に座る優はどこまでも広い海を見据えていて
さっきの言葉は冗談でもなんでもない、
ずっと前から考えていたことなんだと分かった。
「誰よりも想う人が、いるんじゃないの?」
その瞬間、ふと中谷の顔が浮かぶ。
やめて…どうして中谷の顔なんて…。
「俺じゃだめなんだよ」
私は泣きながら顔を横に振る。
「違う…優じゃなきゃ私…ッ」
「お前、気づいてないだろ」
「え…?」
顔を上げると海を見たまま優が答える。
「寝ながらそいつの名前、呼んでる」
「う…そ…」
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