時は誰も待ってくれない 下
優の声は少しだけ震えていて。
私は振り返らず、優に背を向けたまま
精一杯の笑顔を夜空に向けた。
中谷、中谷。星がこんなにも綺麗だよ。
私はまた、空を見て中谷を想うよ。
もう会いたくないと言われても私は中谷に会いたいよ。
こんなにも優しい人に出会えたんだよ。
私の幸せを願ってくれる人がいるんだよ。
それでも私は中谷を忘れられない。

「行っておいで」
優の優しい声を背にして私は走り出した。
まるで音の無いピストルが鳴ったかのように
全力で走り出した。
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