有界閉領域

自己犠牲

誰か来たのだろうか?






家の方から賑やかな声が聞こえてくる。








庭を堪能していた真由は、自然と足が洋館へと向かった。







リビングには祖父と佳代さん萌、そして長身の男の人がいた。




   



   さっき言っていたお孫さんかな?









背を向けていて顔は見えなかったが、萌がブローチを持ったまま顔を赤くしてポーっとしている。







「さぁ~こっちこっち」







手招きで真由を呼ぶ祖父。







ゆっくり男が真由の方に振り向いた。



  
  


    えっ。嘘?!






「こちらが佳代さんのお孫さんの、涼司君。確か高2だよね?」







「はい。真由さんとは同じ高校の同じクラスですよ」







「何だ。2人は知り合いだったのか。それは話が早いな。」








目の前のリョウは、学校とは感じが変わり好青年に見える。







ついつい眉をひそめて見てしまう。  

 

   
   


    いつもダルイ感じなのに、今日はきっちりしちゃってさっ・・・






「い、妹の萌えです。白百合に通う中学2年です」







顔を真っ赤にして、声が裏返ってしまう萌。








男子に免疫が無いうえに、萌好みのハンサムときている。



   



   やれやれ・・・ウブ丸出しで見ているこっちが恥ずかしくなる。







リョウは、クスっと笑顔で笑い、優しく微笑む。







「よろしくね、萌ちゃん」







1秒もあれば萌ぐらい簡単に落とせるって感じだろうか・・・



   



   笑顔の効果は、テキメン。







萌は、まるで好きなアイドルが目の前にいるように、興奮した様子で、目を輝かせていた。







「絵を見せてもらったよ。こっちのしゃがんでいる方が萌えちゃんだね?
今と変わらず可愛いね。」







「ええ~。そ、そんなことないです・・・可愛いだなんて・・・」







照れて照れまくる萌。







「涼司さんは、良くここに来られるんですか?」








「あぁ~。ここに来ると落ち着くからね。それとおばあ様と月に1度はお茶する約束をしているからね。」








「まぁ~、素敵ですね。私も佳代さんとお茶したいです」








萌の大胆な発言に真由は驚いてしまった。




   



   意外と萌は、積極的なんだ。







「おいでよ。その方がおばあ様も喜ぶよ。趣味も合いそうだしね。真由と一緒に来ればいいよ」



   



   えっ?私も???



  


   ちょっと待って話を勝手に進めないでよ。







「涼司さんも一緒に来てくださいね」







萌は言って恥ずかしかったのか、顔がますます赤くなった。




   


   ダメだ。


   
   


   このまま2人に話をさせているとロクなことを言いかねない。







「萌、佳代さんにそのブローチの説明聞いてきたら?」







なるべくソフトに萌を誘導する。






「うん」






素直な萌は簡単に言う事を聞いてくれた。







祖父と佳代さんが話しているテーブルに、行く萌を見届けて、







「お茶のおかわりもらってイイ?」







勘の良いリョウは、言葉以上の事を察してくれたのか、すんなりキッチンに連れていってくれた。







「あのね・・・萌のお茶の誘い断ってくれる?」







頑張って頑張って、可愛く言ったつもり。







「ふ~ん。何で?」







リョウは手馴れた様子で、棚から紅茶の葉を取り、ティーポットに入れ、ミルクを鍋に入れた。







そんな様子を見ながらどう答えていいものか考える。








『萌には近づかないで!』ってストレートに言いたいけど、そんな訳にもいかず、







「萌は勉強で忙しいし、それに白百合は男子と会っているとそれだけで、謹慎もんだから・・・」








「ふ~ん。理由は分かったけど、何でお前の言うことを聞かないといけないわけ?」







沸騰したミルクをティーポットに注ぐ。







ミルクティーのイイ匂いが漂ってきた。




  



   叩い事、根に持っているみたい・・・



  


   言い方が冷たい。






「・・・どうしたら聞いてくれる?」



   



   こんな事言いたくなかったけど、萌の将来がかかっている。



  


   萌がリョウとこれからも会えば、夢中になるのは時間の問題。



   


   まだ、ネット恋愛の方がマシだから・・・







リョウは、考え中なのか黙ったまま出来上がったミルクティーを、真由に差し出した。







「そうだな・・・俺と付き合えよ。そうしたら萌ちゃんの誘いを断る。」






「・・・・付き合うって、お付き合いしましょう的な感じって事?」







「そう。遊びじゃなくお付き合いって事。」







真っ直ぐ見つめられて、冗談じゃなく本気だと分かった。



   



   何を考えてるんだろう。この人・・・



   


   ムカついて嫌いな人間と付き合うとか、分からない・・・







「私の事『マジ、ムカつく』のに?」






真由の言葉が、おかしかったのかリョウはブッと吹き出して笑った。







「しいて言えば、俺の事初めて殴った女だからかもな?で、どうする?付き合うか付き合わないか?」




   


   答えなんか初めから出ている。



   


   だって私には選択権がないから・・・







「・・・付き合いましょう」






答えに満足したのか、リョウはいつもの綺麗な笑顔で微笑む。








「付き合うんだから、橋本とか他の男とはこれからイチャつくな!俺はプライドが高いんでね?もし見かけたら本気でブチ切れるぞ!」








顔は和やかだけど、目は笑っていない。







またそれが、本気だと分かり、怖かった。







「分かった・・・・」






「じゃ〜、今からデートな!」






誘っているのではなく、命令だった。





自分が出した結論がとんでもない事に思える瞬間だった。






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