有界閉領域
幸いにもリョウとは席も離れているし、休み時間中もどこかに行ってしまう為、いつもと変わらない日常で安心した。







昼休みになり、いつものように執行部に行く。







1年の時からランチはいつも執行部で食べている。








告りに来る男子を避けるものあるし、千波が執行部に1年の時から入っているから、教室で食べるよりは執行部で食べたほうが落ち着く。








千波とはクラスが変わってしまったけど、ここで会える時間をお互い楽しみにしている。








「それでさ~1組の薫が告ってフラレたって~」







「へ~。あいつ誰でも告ってんじゃない~?」







「ハハハ・・・言えてる~」








今日の話題は、もっぱら恋愛の噂話。







あんまり噂話が好きじゃない真由は、いつも聞き役。








自分の事も他ではこんな風に噂されてるんだろうなぁ~って思うと、人の事は言いたくなかった。








「そ、そう。さっき、すっごいの見ちゃった。」







噂話のリーダー格、4組の玲奈ちゃんは、生徒会書記で知らないことはなんじゃない?と思うぐらいの情報通。







「何、何???」







「2組の戸塚さんが、リョウと喧嘩してたのよ。






理科準備室に用事があって入ったらね、『もううんざりなんだよ』とか『俺の周りウロウロするな』とかリョウが怒っててさぁ~戸塚さんすっごく泣いてて、何か可哀想だったよ。」









今朝の2人の微妙な感じが何となく今わかった。








「それって遊びでも嫌だって事でしょ?そこまで嫌われたら重症だね。リョウってやるだけで特定作らないって噂だしでも、あれだけの美形なら遊びでもいいって女子多いしね」




   





   遊びでイイ??私には考えられないなぁ・・・






「じゃ~さぁ~。今は完全にフリーだね。」






「何?狙ってんの千波~」






「イヤイヤ、私にはちゃんと本命いますから」






「そうだよね~。キャハハ・・・」



   
   



    トントン!







ドアをノックする音。







執行部の昼休みは、意外と人の出入りがある。







書類を持ってくる者や、部の経費についての相談だったりと。








千波と真由はいつもの事のように、荷物を持って仕切られた衝立の後ろに移動した。







「えっ?」






ノックした人物に驚いたのか、玲奈は驚いた声を上げた。





   


   誰だろう???







衝立の後ろでは、真由と千波が無言で目を合わす。






「真由いる?」








聞き覚えのある声に、真由は背筋がピンと伸びた。



   


   リョウ?!!!!


   



   噂をすればなんとやら・・・・






「真由、お呼びだよ」







衝立から顔を出す玲奈の目は興味津々に光っている。






後でたっぷり話を聞かせてもらうからねと言っているようだった。








ドア前にはリョウが立っている。






タイプじゃないけど、普通に立っているだけで、絵になる。







「あの、ちょっと・・・」






場所を変えようと言おうとしたけど、気が変わった。







廊下に出れば誰が見ているか分からない。







まだこの部屋だと、人に見られる心配は少なくてすむからだ。







「・・・ううん。何でもない。私に用事?」







なるべくソフトに話すように心がける。








「あ、これ。昨日忘れていっただろう?コウが大事なものかもしれないから、渡せってうるさくてさ」








リョウはズボンのポケットからクマのキーホルダーを取り出した。



   

   

   これって・・・萌の?







前にカバンを貸した時から入っていた物だろう。






確かに見覚えはある。



   


   全く大事でも何でもないただのキーホルダー。









こんな小さな物にまで、気を配ってくれるコウの優しさに、自然と顔が微笑む。








そんな真由をリョウは、じっと見ていた。








「あ、ありがとう。わざわざ届けれくれて。あの、コウにもありがとうって言ってね。それに昨日はお金も払わないで、帰ってしまってごめんなさい。」









リョウには酷いことされて謝りたくなかったが、でも、料金も払わないで食い逃げされたとか思われるのは







絶対嫌だったから、とりあえずここは謝る。


 




「はっ?金??別にいいよ。それよりコウとは同じ中学だって?」







「・・・そうだけど?」







リョウが何を言おうとしているのか分からず、探るような態度をとってしまう。








「彩花って子いただろう?」







新体操していた彩花ちゃんだろうか?ふわふわした雰囲気で可愛い子で、男子から人気があった。








もったいつけるよなリョウの態度が、イライラする。








「コウが中学時代好きだった子。残念ながらお前じゃなかったな。」







そう言うとリョウは意地悪く唇を上げた。



   

   


   な、何?・・・えっ・・・嘘



   

   ヒドイ・・・ヒドイ・・・







黙ったままうつむいてしまう真由。







そんな真由を楽しそうに見るリョウは意地悪に笑いながら、






「知らないと思うから教えてやるけど、コウは、綺麗より可愛いタイプが好きなんだぜ?だから、お前は無理だよ」





   


   バシッ!!!





   ヒドイよ・・・何で・・そこまで言わなくても・・・



   


   自分でも分からない感情が、マグマのように流れて・・・




   
   気がついたら。




   
   リョウの頬を平手打ちしてしまっていた。







ショックだったのかリョウは、呆然と立ちすくんでいる。







叩かれた方の頬を手でさすり、確認する。





   

   ・・・ヤバイかも・・・







リョウの腕がすっと伸び、



   


   叩かれる!!!




   


   そう思った瞬間!!







力強く引き寄せられ、唇を噛み付かれた。



   


   本当は・・・強引なキスだったけど。



  


   感覚は、噛み付かれているのと同じ。








「きゃ~~~~。」







興奮した玲奈と千波の黄色い声。






やっとの思いでリョウを引き離す。





離れた唇は小刻みに震え、口の中は血の味がした。


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