小さな恋のうた~short story~
竜桜はニコニコ笑っている。
それも、裏表ない笑顔で……
家が家だから、人の醜い感情に私と琥珀は敏感になっていた。
それなのに、この人からは何も感じない。例えるのなら……愛裕みたいな…
……本当に竜桜なの?

竜桜とはここら辺の治安を裏で守っている人。強くて、すごく怖い人だって聞いていた。
李家の本家とも友好関係を築いているとも聞いた。
その“竜桜“が座りこんでいる紫苑の目線に合わせるため、しゃがみこむ。

「あっ……」

立とうと力をいれても立てなかった。
どうやら腰が抜けたらしい。
すると…

「大丈夫だよ。もうこわくない」

そういって彼は抱き締めてくれた。
その時、やっと気付いた。私が震えていたことに……
彼の腕の中が暖かくて……安心して……一気に涙が溢れた。

「っ……ふぇっ……こわかった…よぉ…」

人前で涙を流すのはいつぶりだろう?
ずっと……ずっと……昔だった気がする。
ただ、今は…思いっきり泣きたい。
怖かったことも、琥珀が好きだった事も、“両親“のことも……
全てを洗い流すかのように。
今はすがっていたい。
この人にすがっていたい。

竜桜の抱き締める力が少し強くなった気がした。


< 7 / 8 >

この作品をシェア

pagetop