幻物語
近所を散歩していると「工事中」の看板が目に入った。


そこへ通り掛かった近所の人の話し声が聞こえた。


「昔はこの辺り凄く広い庭園があったらしいわよ。」


「そうなの?初めて知ったわ!」


「最近行った都内の資料館で偶然知ったのよ。地元なのに知らなかったわ!」


この街に引っ越して数年経つけれど私も勿論知らなかった。


いつもは工事現場の近くは注意して遠ざかるのになぜか看板の近くに行きたい衝動に駆られた。


白い鉄の壁沿いを歩いて行くといつもは賑やかなはずの通りが徐々に静けさを増していくのを感じた。


不審に思い、引き返すとさっきまでの工事の騒音がぴたりと止んでいた。


それどころか人一人歩いていない。
< 4 / 17 >

この作品をシェア

pagetop