この愛に抱かれて
茂はアパートの階段下にある駐輪場に自転車を止めると、駆け寄ってきた響子を軽々と抱き上げた。

嬉しそうに喜ぶ響子の頬に茂がキスをすると、響子もマネをして茂の頬にキスをした。


恵美子はそんな2人を眺めながら優しく微笑んだ。


ささやかな、平凡な幸せがそこにはあった。


贅沢な暮らしを望んでいたわけではない。

出世を望んでいたわけでもない。


職工として汗まみれになりながら愚直に生きていた夫に恵美子は十分満足していた。


笑顔があふれるこの生活こそ、夫婦が望んでいたものだった。

3人でいるだけで幸せだった。


響子は茂の胸に顔をうずめながら、父親の温もりを感じていた。

両親の愛に包まれていた。
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