この愛に抱かれて
直樹の母、節はそのことをずっと気に掛けていた。


「聡子さん、あなたには何と言ってお詫びしたらいいのか・・・。言葉が見つからないわ」


「やめて下さい、おばさま。
詫びるだなんて、とんでもありません」


節と聡子はレストランで昼食をとっていた。

ふたりで演劇を観た帰りだった。


「でも、籍を入れないまま、もうすぐ13年。
あなたのご両親にも顔向けが出来ないわ」


「おばさま、私は幸せですよ。
こうして、おばさまにも大切にしていただいていますし・・・」


「だけど普通なら結婚して子供がいる年頃・・・それを思うと、不憫でならないわ」


「結婚したからって、必ず子供に恵まれるとは かぎりません。
それに、私にとっての一番の幸せは、彼のそばにいることなんです。たとえ夫婦という形でなくても、彼が苦しんでいるのなら、私は彼を支えたい」


「ありがとう、聡子さん。
あなたのような人にめぐり合えて あの子は本当に幸せだわ」


聡子は少しばかりハニカんだ。
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