この愛に抱かれて
「滝川さんを呼んでくれ」

直樹が佐山に言った。

滝川とは、加藤家のお抱え運転手滝川宏次のことだった。

遥と家庭教師山口の送迎をするため、滝川も別荘に滞在していた。


直樹と博史は昼食からずっとワインを飲んでいた。

だから、車の運転を滝川に頼むつもりだった。


すると佐山が困った顔で

「滝川さんは先ほど遥さまと出かけました」と答えた。


「出かけた?」


「はい。遥さまが夕食に手料理をなさるとおっしゃって、その材料を買いに山口さまと街まで・・・」


どうりでピアノの音がしない訳だ。

チェスをしていた途中で、ピアノの音が聞こえなくなっていたことを直樹は思い出した。
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