この愛に抱かれて
ふと、お金のことが頭に浮かんだ。

響子は慌てて箪笥にしまっておいた貯金通帳を探した。



残高は216円だった。



「貯金?どうしたの?」



「小遣いくらいくれよ」



「パチンコに使ったの?」



「もう、うるせーなぁ」

そう言うと、富田は自分のセカンドバッグを手に取り、外へ出ていった。



響子はリビングにしゃがみこんだまま呆然とした。


夢にまで見た幸せな家庭が音を立てて崩れていく気がした。



その晩、富田は帰ってこなかった。
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