この愛に抱かれて
男は大きく息を吸った。


全身に電流が走ったかのように鳥肌がたった。


そう、


響子の目の前にいたこの男こそ、


誰あろう、加藤直樹本人であった。


直樹はあまりの偶然に動揺した。


言葉が出なかった。



自分が死なせてしまった被害者の娘 牧村響子がいまここにいるのだ。



「すみません、暗い話で。・・・やめましょうね。せっかくの食事が台無しですよ」



響子はニコリと微笑むと、美味しそうに食事を続けた。


響子がどんな人生を送ってきたのか、直樹は知る由もなかった。


ただ、順風満帆でなかったことは容易に想像できた。
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