この愛に抱かれて
「結婚だけがすべてじゃないけど、女は結婚したいもんですよ」


響子は富田のことを思い出しながら しみじみと言った。


「君にだって、必ずいい人が現れるさ」


「どうかなぁ」

響子は独り言のようにポツリと言った。


「私、自分でも つくづく運の無い女だって思いますよ。
そういう星の元に生まれた人間なんです」


直樹は返す言葉を失って、拳を強く握り締めた。



直樹は迷っていた。



本当のことを話して彼女に謝るべきか。


それとも、このまま黙っておいて善意の第三者として彼女を支えるべきか。



響子の喜ぶ顔を見るたびに、直樹は今の関係を続けたほうがいいのではないかと思い始めていた。


だが、嘘は所詮嘘でしかない。



思わぬ形で嘘は ばれた。

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