この愛に抱かれて
「私が どれだけ事故のことや犯人のことを覚えているのか、探りたかったのよ」


「違う。それは違う」


「いいえそうよ。私が犯人に関して何も覚えていなかったら、これ幸いにとサヨナラするつもりだったのよ。
そのために善人面して私に近づいたんだわ」


「それは誤解だ。俺は、」


「フッ、フフフッ」

響子が目を閉じて俯いたまま 小さな声で笑い出した。



「私もつくづく馬鹿な女だわ。
自分を どん底に突き落とした男から お金を借りて感謝までして・・・、とんだお笑い種だわ」


「響子さん・・・」


「帰って!・・・。もう二度と来ないで!」

響子は泣きながら店の奥に歩いていった。


直樹はその場に立ち尽くした。
< 228 / 252 >

この作品をシェア

pagetop