この愛に抱かれて
断崖の高さは、ゆうに30メートルはあった。

ここから飛び降りればすべてが終わる。


この苦しみから逃れられるだろう。



20歳という若さでありながら、響子は死を決意していた。



すべてに疲れ果て、明日という未来さえ見えなかった。


自分の居場所が見つからないばかりか、存在意義すらわからなくなっていた今の彼女に希望など無かった。



目を開けた響子は、その先に広がる薄暗い闇をじっと見つめた。


そしてむくりと立ち上がると、波しぶきの音が聞こえる方へ向かって、ゆっくりと歩き出した。

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