この愛に抱かれて
「俺が・・・事故?」


直樹は途方にくれた。


事故の記憶がまったく無かったのだ。


「お兄さま。何も覚えてらっしゃらないの?」

遥が心配そうに聞いた。


直樹は記憶をたどるように考え込んだ。


だが、何一つ思い出すことができなかった。


別荘で博史と乗馬を楽しんだことは覚えていたが、事故当日のことはまるで覚えていなかった。


「とにかく、意識が戻って本当に良かったわ。今は、ゆっくり休むことだけを考えてちょうだい」


節は直樹の腕をさすりながら、うっすら涙を浮かべた。
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