この愛に抱かれて
午後6時

仕事を終えた茂に職工仲間の山田健一が声をかけた。

「牧村、一杯付き合わないか?」

「悪い。今日は帰るよ」

その様子を見ていた他の仲間が「今日も、だろ?」と言って茂のことを冷やかした。


「ハハハ。子煩悩な奴だねぇ。娘が可愛くてしかたないか」

山田が汗のしみこんだ作業着を脱ぎながら言った。


茂は更衣室のロッカーの扉を開けると、その内側に貼ってあった娘の写真を見ながら、

「子供なんて可愛いのは今だけだよ。
大きくなれば、俺のことなんて見向きもしなくなるさ」と言った。

「そりゃそうだ。
あと10年もすれば、口も利いてくれなくなるな。アハハハ」

茂も苦笑した。
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